第五話 いそぎんちゃく

8.口


 生暖かく湿った風がアカフクを迎えた。 キスの時にぐらいしか嗅ぐことの無い女の口の匂い、それが

あたりに満ちている。 ここは『巨大いそぎんちゃく』の口の中だ。

 アカフクは、うねる肉のカーペットに、だらしなく体をあずけ芋虫の様にのたうつ。 『舌』はアカフクの

動きに反応して波打ち、その全身を愛撫する。

 ”うへうへ……”

 薄笑いを浮かべ、女の『舌』の上でよがる痴態は、人様に見せられないような乱れたものだ。 だがここ

では、配慮も遠慮もいらない。 欲望のままに振る舞い、快楽を求めればいい。


 ピチャ……

 ”あひ?”

 足の間を舐められた。 しかし、今いるここが『舌』のはず? アカフクは自分の足の方に目を向けた。

 ”お、お前も『いそんぎんちゃく』なのか?”

 『舌』の上に、『女』がうずくまっている。 ただ、その肌は『舌』と同じ赤い色だった。 いや色だけではない、

皮膚の質感が『舌』と同じなのだ。 いわば『女』の形をした『舌』だった。

 『ようこそ……可愛がってあげる』

 『舌女』が、アカフクの足の間に、上体を滑り込ませた。 そのまま口でアカフクの股間を包み込む。

 ”ひにょぉぉぉ!?

 『舌女』の肌触りは、見た目どおり『舌』そのものだった。 『舌女』に抱きつかれることは、全身を舐め

まわされるのと同じだった。

 ”あは……たまら……ん”
 あまりに異様な快感に、アカフクは動くこともできず、されるがままになった。 『舌女』は口の中のモノを

弄びながら、頭で股を擦りあげ、腕と胸で両足を愛撫する。 下半身を丸ごと舐められるような感触だった。


 ヂュゥゥゥゥ……

 ”ひっ!?”

 いきなり両脇を吸われた。 慌てて視線を向けると、別の『舌女』の頭だけが、床−−『巨大いそぎんちゃく』の

『舌』から生えていた。 見渡せばも彼の周囲で数人の『舌女』が生えてくる。

 『うふふ……』

 『いらっしゃい……』

 淫らな表情の『舌女』達に囲まれ、さすがにアカフクの心の奥に恐怖が芽生え、それが彼を正気に引き戻す。

 (『いそぎんちゃく』の群れ……まてよ……そーだ、確か珊瑚って、ちっちぇいそぎんちゃくが群れてるよな……

ひょっとしてこいつら)

 アカフクは奇跡的な閃きを見せ、『舌女』達を観察した。 『舌女』達は『巨大いそぎんちゃく』の舌から生えて

一体化している。

 (やっぱそうだ。 このデカブツは、いっぱいの『いそぎんちゃく』がくっついて…… そうか!島の上で奴らが

急に消えたり現れたりしたのは、下に引っ込んだり、生えたりしただけなんだ!)

 アカフクがそこまで考えたとき、『舌女』達が彼に群がってきた。

 ”お、お前ら……あうっ……”

 しかし股間から競りあがってくる快感は、その正気を失わせる。

 『だめよ……もっと感じて……』

 淫猥な囁きと共に、耳が咥えられ、耳の形にそって舌が這い回る。

 ”か、感じる……”

 『喜んでいただけてうれしいわ……』

 『舌女』達はアカフクを囲むように寝そべり、敏感なところを手や足でつついたり、なでたりし始めた。

 ”たまんねぇ……”

 蕩けた表情のアカフクに、『舌女』達が舌なめずりをする。 その目様子は、獲物に襲い掛かる直前の肉食獣の

様であった。


 ザワザワザワ……

 『舌女』達の『髪』は、指程の太さの触手になっていた。 それが持ち上がって、先端部がゆっくりとアカフクに

迫っていく。

 チュ、チュ、チュ……

 アカフクは、全身に柔らかい刺激を受け、身を震わせた。 『髪』の先端には小さな『口』がついていて、それが

一斉に口付けてきたのだ。 小さな『舌』を出し、舐めているものもある。

 ”あぁ……あぁぁ……”

 チュチュチュ……

 集中『口』撃は、波の様にアカフクの体を上から下、下から上へと走り抜ける。 続いて『髪』の幾つかが体に

絡みつき、リズムをつけてアカフクの体を這いずりまわる。

 ”うぅぅ……”

 喘ぐアカフクに、『舌女』達が体を摺り寄せ、手や足を『胸』に挟み込む。 柔らかい胸の谷間に在りながら、手や

足を舐められると言う不思議な感触がアカフクを惑わす。

 『うふふふふ……』


 アカフクは普通なら絶頂に達するような快感に浸っていた。 いや、幾度かは達かに絶頂を迎えている。 しかし

放った記憶が無いし、股間が力を失う事はなかった。

 ”蕩けそう……”

 終わりのない快感に、体の中がほんのりと暖かくなり、波打っているような気がする。

 『そう……もうじき貴方は蕩けきるの……』

 『舌女』が囁く。

 『貴方は、人の形をした男根になるのよ……たぁーっぷりの白い迸りの詰まった……』

 ”……”

 『そうなったら……皆で咥えてあげる……吸ってあげる……アソコから……口から……耳から……毛穴から……

穴という穴から貴方を吸い出してあげる……何にも残さない、貴方の全てを奪ってあげる』

 戦慄すべき『舌女』の囁きに、アカフクの全身が震える、狂気の喜びに。 彼はもう『いそぎんちゃく』のものだった。


 ”いく……いく……蕩けるぅぅぅ……”

 アカフクの全身を熱い快楽の波が走り抜け、続いて心地よい脱力感に包まれた。 続いて、全身から力が抜け、

アカフクはぐったりと横たわった。

 『うふ……うふふふふ……』

 『舌女』達はぞっとするような含み笑いを漏らしつつ、予告どおりにアカフクの体に口付け、アソコを咥え、唇を重ね、

指をはみ、全身に口付けた。 そして。

 『愛しい方、さあ……おいで』

 チュ……チュルルルルルル!

 全身から射精を促されたアカフクは、穴と言う穴から精気を迸らせた。

 ”き、ギ、ギボヂイイ……”

 全身を包み込む射精の快楽の中で、全てを白い迸りに変えられたアカフクは、全て『舌女』のものとなる。

 『おいしいわ、貴方……』

 『もっと……もっと……』

 執念深く吸い続ける『舌女』達の間で、アカフクの体はみるみる萎み、やがて皮すらも蕩けて『舌女』達の『口』に

消えていく。

 『ああ……素敵……』

 満足げに口の周りを舐める『舌女』、その口元についた雫が、赤い頬を這いずり、自ら『舌女』の口の中に滑り込む。

 ”ィィィィィィ……”

 小さな喘ぎを残して。

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